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2011年8月19日金曜日

最近で一番つらかった事。





個人的に、美容のお仕事は大好きです。
仕事と思って鋏を持っていた事は一度もないほど、
好きな事が結果仕事になっていたといえるほどです。

ただ、過去に一度だけ仕事と割り切って鋏を握った事があります。

先月、いろいろな出来事が「ひと区切り。」ついて
今日、自分の中でいろいろな考えが整理できたので書いておく事にします。

ちょうど二年前に僕の仲の良い人が女性のお客様を紹介してくださいました。
とても、元気で活発な印象のMさん。

いつも通り、相手のいろいろな表情や生活スタイルを察するために、
他愛のない話をしながら観察します。
その後、具体的なスタイル提案が出来るくらいに
情報が集まってから髪の話になります。

そこでMさんが
「スキンヘッドにしてください。」

性格から察するに冗談だと思いましたが、
その表情からはさっきまでの明るさを
想像できないくらいに真剣でどこか苦しみを併せ持った、
瞳の奥の方で光る様な輝きを持った眼差しがありました。

何かあると感じると
必ずと言っていいほど触れるとわかります。
その感覚は仕事によって研ぎ澄まされたものかどうかは未だわかりませんが、
どうやら、そういう力の様なものがあるそうで。

その時も髪を触りました、
正直。
生きている身体には思えないほど疲れきっていて、
普通の人間ならば通っているはずの気の流れすら感じませんでした。
滞っているというよりも無いと言った方が正しい位です。

経験から察するに、
確実にそう遠くない未来に、
生が果てるか、
自ら立つ覚悟が決まっていない限り、
そのような状態にはなりません。

次に出た言葉は
「どこが悪いんですか」

答えは。

癌。

きっと、
かなりの末期。

スキンヘッドにしたいのも、
その治療の過程で抗がん剤治療や放射線治療で毛が抜けるから。

末期で外科的処置が無いのは死期がかなり近い証拠。
父を癌で亡くしているので、
担当のドクターの話や周りの状況を聞くだけで、
どの位の状態なのかは察しがつきました。

それと同時に、それまでの数分間の話の中に
失礼な事や残酷な言葉が無かったかを調べました。

お客様がお店に足を踏み入れる一瞬に懸ける、
自分が日常的に行ってきた、
お客様への観察眼の精神力不足に
ひどく後悔したのを覚えています。

その後、カウンセリングは進み
抗がん剤の種類・名称、
放射線治療の回数・強さ、
治療計画を伺って目安を立てます。

その目安というのは、
髪の毛がどのくらいのタイミングで、
どの程度伸びるのかの予想に止まらず、
生えてきた場合に出来るその時々のスタイルをお話ししながら、
やりたい髪型、作りたい雰囲気をもとに夢や希望を持って頂く事が目的です。

その後、
もし計画通りにならなかった場合、
どのようなスタイルが良いのか、
再度スキンヘッドにすべきか、
ヘアウィッグの使用も視野に入れたお話しを行い、
万が一の際の気持ちのダメージを軽減できるように努力します。

その際には必ず、
美容室に来ても良い身体や精神状態の目安もお話しして、
負担にならない程度の目標意識も持って頂くように心がけています。

そのようなカウンセリングは1時間半にも及び、
ついにシャンプーをする事になりました。

今思えば、
1時間半のお話の間に自分はずるかったのでは無いかと思いだす事があります。

それは、

カウンセリング中ずっと被っておられた帽子を
安心して取って頂きたかったのか、

心のどこかで、

その帽子を取った姿に顔色を変えることなく
鋏を握れるための心構えをする時間が欲しかったのか、

未だに解りません。
きっとどちらもです。

しかし、
その経験のお蔭で、今ではどんな状態のお客様がいらしても
全く動じることなく鋏を握れるようになりました。
きっと、
答えが出ていないお蔭だと思います。
答えが出ないお蔭で、
その時の感覚を忘れず、
一人一人のお客様に向かい合う覚悟が出来ているように感じます。

シャンプー台へ向かうまでお客様の方を見ませんでした、
正直に言うと見る度胸が無かったのだと思います。

そして、
シャンプーをしながら涙が出ないようにするのが精一杯で、
会話の内容は思い出せません。
それは、
髪を綺麗に

「しなきゃいけない」

なんて思いながら髪を触る日が来るなんて思いもしなかったからです。

頭の中は思考が停止してしまいそうだし、
視界には、
洗いながら驚くほど指に絡みつく髪の毛。

そのとき以上に美容師という仕事が、
人の人生に関わる存在だという事を体感した事はありませんでした。


シャンプーが終わってから、
鏡のある席に移動する前に僕は照明を半分消しました。

本当は鏡の無い部屋で切りたかった位です。

まず、
鋏で長さを揃え。

刈り上げ。

バリカンで極力短く仕上げ。

既に抜け落ちてまだらになっている場所に合わせて量を調整しました。

後にも先にも「仕事」と思って鋏を握ったのは
その時だけでした。

施術が終わってから、
いつも通り手鏡をお渡しして後ろや横を確認して頂きます。
「すっきりした」
と仰いながら次回の髪型を相談されてました。

しかし、
自分の心の中は、
そのお客様の残されている時間の少なさばかりが気になっていたので、
「待ってますから、元気になった時に考えましょう」と笑顔を出すのが精一杯でした。

それから、一年ほど経ち諦めていた頃に電話が鳴り、
元気な声で「戻ってきました」とご予約のお電話でした。

後日、久しぶりにお目にかかった印象は、
体格もバランスよく健康的でした。

しかし、
自分の父親の時の経験がまたしても重なります。
癌になった後で治療や外科的処置を行うと、
ほとんどの方が一度、健康な状態に近く見える位に回復します。
僕の父もそうでした。

外科的処置が出来ないとすれば、
きっとステージ4の状態。                                                
治療後に運良く残りの人生をそのまま行く人は、
とても少ないと言われています。

しかし、
そんなことはきっとご本人の方が解っているはずです。
それでも、
とても素敵な笑顔で「この日をずっと待っていました」
と仰いながら肩まで着くほど伸びた髪を見せてくださいました。

美容師冥利に尽きる一瞬でした。

そして、
格好良いショートスタイルというテーマのもとにカウンセリングをして、
一生懸命伸びた髪を切る瞬間は、
感動と悲しさが入り混じったとても複雑な感情でした。

僕もお客様も涙目でした。

そして、とても複雑な表情だったのは言うまでもありません。

きっと、
その時には十分悟られていたと思います。

しかし、
最後に見た笑顔はとても綺麗で、
赤ちゃんの様な澄んだ目が印象的なものでした。

その後、2度足を運んで頂きました。


「また、癌の治療に入るから次は3か月後に。」



と仰ってからだいぶ経ちますが、
まだ、いらしてないです。





今日、
別件でM様の共通のお付き合いがあるお客様と、
お電話でお話しする機会があり。
先月末に2年間の闘病生活の後にお亡くなりになった事実を伺いました。

僕の中で何かが途切れました。
そして、色々なものが生まれました。


美容師を始めた時から、
極力、自分よりも年上のお客様を担当するように心がけてきていました。
それには理由があります。
人さまの人生に関わる部分に携わっているのだから、
お客様より先に死んではいけないと思うのです。

真面目に気をつけて生きていれば、
きっと最後のお客様を見送るまで働ける気がするのです。

最近は、
お子様、お孫さんをご紹介下さる方も多いので目標値は更新されつつあります。

きっと、
そこまで考えずに目の前の事を、
こなすように働く方が楽なのは解ります。

しかし、
それでは僕の様なぐうたらな人間には美容師は務まらないように思います。
なので、
今回長々と書いたような、
なかなか出来ない美容師体験を与えられる機会に恵まれているという事は、
きっと意味があると信じて日々美容師という生き方を磨く努力をしていこうと思います。

後日談ですが、
Mさんご本人は最後まで末期がんであることは伝えられる事無く、
治ると言われて治療に専念されていたそうです。
しかし、
身体は正直です。
きっと感じてはおられたのだと思います。

このブログをご覧になっている皆様も、
ご自身の身体の声を感じれるように、
是非ともご自愛ください。





※今回のブログの内容につきましては不許複製とさせていただきます。

6 件のコメント:

HEADS hair さんのコメント...

京都府京田辺市のHEADS hair美容室の
牧野と申します。
私の母も癌で56歳で逝きました。

そして お客様の中にも 今現在、闘病中の方がいらっしゃいます。

こういう場面に出会うたび、私の心は 声にならない哀しい悲鳴をあげています。

aimkamiyui さんのコメント...

HEADS hair 牧野様

お忙しい中、
目を通してくださりありがとうございます。

心中お察しします。
僕の父は48歳でした。

お客様商売を続けてる以上、
避けられないことと悟りながらも
辛いですよね。
お互い心と体に気をつけたいですね。

おけまる さんのコメント...

そちらに一度カラーとトリートメントに伺ったものです。
その時のトリがとてもよかったのでまた行こうかなとHPを見ていてこのブログに遭遇しました。

失礼ながら、通常は東京の美容院に通っておりましたが、横浜に住んでおりますのでどうしても東京にいけなくそちらに伺ったのです。
理由は父の看病、介護でした。急変がこわかったのでとても東京までは行けませんでした。
その父も7月に肺がんで逝きました。
母は私は一歳の時に胃癌で亡くなりました。
美容師だったとのことで、仕事を辞めてもお客さんが家に髪を切りに来てくれていたそうです。

このブログを読ませていただいて、美容師さんがこんなに熱意をもって接してくださってることが大変ありがたく、胸が熱くなりました。

これからもお体に気をつけて、たくさんのひとを笑顔にしてくださいね。

ありがとうございます。
またお店に足を運ばせていただきます。

aimkamiyui さんのコメント...

おけまる様

コメントありがとうございます。
お忙しかったのですね。

季節が過ごしやすくなって、
お時間がある時に、いつでもいらしてください。

お待ちしております。

匿名 さんのコメント...

そちらで何度かカットしていただきました。思い切って髪型を変えたのですが、周囲の評判もとてもよくて満足しています。

私は病院で働いているので少し立場は違うのですが同じような経験をします。

以前受け持った方なのですが、まっすぐな長い髪がとってもきれいな方でした。お気に入りのシャンプーを持参して入院され、髪の手入れを丁寧にしていると自慢げに話してくれました。でも、私はその話を聞いた後に抗がん剤の説明をしなければいけませんでした。副作用で髪が抜けてしまう話をした時の、その時の顔を今でも忘れられません。

数日後にその方に会った時には、きれいだった髪はすべてなくなって、「抜けてしまうなら絡まったりして大変だろうし、少しでも短くしようと思って。」と、スキンヘッドになっていました。私はかける言葉が見つかりませんでした。

その後、その方は無事に治療を終えられ、退院されました。

それから1年くらいたったころでしょうか。私が初めてそちらで髪を切っていただいてから少し経った頃です。急に廊下で誰かに呼び止められました。初めは誰だか分らなかったのですが、少しふっくらした、くせ毛のショートヘアの女性はあの時の方でした。「こんなに元気になったのよ!」と笑顔で話しかけてくれました。
「外来であなたを見て、素敵な髪型だから追いかけてきたの。私、髪は生えてきたけど、髪質が変わっちゃって。あなたの髪型素敵だから、行っている美容院を教えてちょうだい!」
やっぱりこの方は変わりなく髪を大事にしてるんだなと思いました。持っていたメモに地図と店名を書いて渡しました。


その方とはその後お会いしていないので、そちらにお伺いしたかどうかがわからないのですが、このブログを読んで少し後悔しました。もしその方そちらにカットに行っていて、その後再発して治療のために短く切るとなったとき、結果的にこのブログにあるようなことになってしまう事があるのではないかと思ったからです。


それでも、こんなに深い思いを持って切ってもらえることはとても幸せなことだと思います。

人生の中で髪を切るということは見た目だけでなく気持ちの区切りとなる大切なことで、その人をみて、しっかりと向き合っていく美容師というお仕事は、本当に素敵だと思いました。

これからも通わせていただきたいと思いました。



ブログを読んで感じたことを書いてみましたが、長文な上にまとまりがなく申し訳ありません。

またお伺いする日を楽しみにしています。

aimkamiyui さんのコメント...

匿名様

コメント有難うございます。
ご紹介いただいたお客さまは月に一回通っていらっしゃいます。
有難うございました。
中途半端で気に入らないと仰っていた
ショートヘアをばっさり切られいつも元気に足を運ばれます。
初回にいらしたときに、
ご紹介のエピソードを語られました。
併せて、癌のお話もされてました。
ご自身もよくご理解されておられるようでしたので、
今後のヘアプランを一緒に考えました。
これから、
どんな状態でもお付き合いさせていただくお約束をしておりますのでご安心下さい。

日々、心身ともに大変なお仕事とお察しします。
どうぞ、くれぐれもご自愛ください。
次回お会いできるのを楽しみにしております。